判例紹介

2ちゃんねる和田氏殺害予告?事件

本件は、元従業員が2ちゃんねるに投稿した内容について、不法行為を理由に和田氏側が損害賠償を求めた裁判です。主文は、和田氏側の請求を認めるものとなっておりますが、裁判所は和解交渉において元従業員が提示した賠償額相当しか認めておらず、その後の控訴棄却・上告断念という経過をみれば、事実上、和田氏側の敗北と思われます。詳しくはこちらのブログを御覧ください。

 

損害賠償請求事件
東京地方裁判所平成24年(ワ)第28406号
平成25年2月8日民事第5部判決
口頭弁論終結日 平成25年1月11日

判 決

原告 A
原告 株式会社ロイヤルアートジャパン
同代表者代表取締役 A
原告ら訴訟代理人弁護士 神田知宏
被告 B

主 文

1 被告は,原告Aに対し,33万円及びこれに対する平成23年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告Aの被告に対するその余の請求を棄却する。
3 原告株式会社ロイヤルアートジャパンの被告に対する請求を棄却する。
4 原告Aと被告の間の訴訟費用はこれを20分し,その17を同原告の負担とし,その余を被告の負担とし,原告株式会社ロイヤルアートジャパンと被告の間の訴訟費用は同原告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
1 被告は,原告Aに対し,220万円及びこれに対する平成23年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告株式会社ロイヤルアートジャパンに対し,271万7000円及びこれに対する平成23年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)被告の投稿
被告は,インターネットの「2ちゃんねる」(以下「本件サイト」という。)において,別紙投稿記事目録記載の投稿日時に,同目録記載の投稿内容の記事を投稿した(以下「本件投稿」という。)。
(2)同定可能性 スレッドのタイトルにある「Nevada7」とは、ロイヤルアートグループの顧客に対する投資情報ブログ 「Nevadaブログ」を指す(甲2)。スレッドの投稿1にも,ロイヤルアートグループの会社として,原告株式会社ロイヤルアートジャパン(以下「原告会社」という。)及びコレクターズジャパン株式会社の名前が示されている(甲1)。そして,本スレッドのスレッドタイトルにある「7」はNevadaの7番目という意味である。したがって,原告会社の顧客であれば,本件投稿が原告会社及びその代表取締役である原告A(以下「原告A」という。)の話題であると同定可能である。
(3)原告Aに対する権利侵害
ア 本件投稿は,原告Aに対し,「死ね」「さっさと死ね」と繰り返している。
イ 脅迫 これは原告Aに対して強い殺意を示すものであり,少なくとも原告Aを脅迫する内容を含むものとして,その人格権を侵害するものである。
ウ 侮辱人に対して「死ね」ということは,単なる悪態にとどまらず,相手の全人格を否定し,積極的にその者を「生存に値しない人間」と評価する表現であり,原告Aの名誉感情を害する侮辱的な投稿であって,原告Aの人格権を侵害するものである。
エ 名誉毀損 一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると,原告Aは何者かにより「死ね」「さっさと死ね」と強 い殺意を抱かれるような人物であるか,又は当該何者かに対してひどいことをした人物なのだろうと読む ことができ,原告Aの社会的評価を低下させるものであるから,名誉毀損に当たる。
(4)原告会社に対する権利侵害
ア 本件投稿は,原告会社の事業に関するスレッドにおいて,原告会社の代表取締役である原告Aに対し,「死ね」「さっさと死ね」と繰り返し,強い殺意を示している。
イ 信用毀損 一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると,原告会社はその事業に関して尋常でないトラブルがあ るため,代表取締役が顧客から何度も何度も繰り返し「死ね」と書かれているのだと読めることから,原 告会社の社会的評価を低下させ,名誉,信用を含む人格権を侵害するものである。
ウ 業務妨害 これほど強い殺意を示す者なら,いつ実行に移すことも予想されることから,顧客が原告会社の店舗に 赴いた際,殺害実行の現場に遭遇してしまう可能性があること,そして,顧客自身も店舗で事件に巻き込まれる可能性があると読めることから,顧客に店舗訪問を躊躇させるおそれがある。これは,原告会社にとって取引機会の逸失につながることから,業務妨害であって,営業権侵害である。 また,原告会社としても,店舗が殺害実行の現場にならないよう警備を強化したり,従業員に注意喚起したりする必要が生じることから,この点でも業務妨害であって,営業権侵害である。
(5)原告Aの損害
ア 精神的苦痛に対する慰謝料 原告Aは,被告の権利侵害行為により精神的苦痛を被った。これを慰謝するに足る金銭は少なくとも200万円を下らない。
イ 本件訴訟の弁護士費用損害 20万円
(6)原告会社の損害
ア 無形の損害 原告会社は,被告の権利侵害行為により,信用毀損,名誉毀損という無形の損害を被った。また,コストをかけて本件に対応しており,業務妨害という無形の損害も被った。これらを金銭評価すれば,少なく とも200万円を下らない。
イ 有形の損害 原告会社は,本件投稿の投稿者を特定するため,弁護士に調査を依頼し,仮処分,訴訟も含む調査費用 として47万3500円(税込)を支払った。この調査費用は,本件投稿による不法行為と相当因果関係 のある損害である。
ウ 本件訴訟の弁護士費用損害 24万7000円
(7)よって,
ア 原告Aは,被告に対し,不法行為に基づき,損害合計220万円及びこれに対する最後の不法行為の日である平成23年11月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 原告会社は,被告に対し,不法行為に基づき,損害合計271万7000円及びこれに対する最後の不法行為の日である平成23年11月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)の事実(被告の投稿)は認める。
(2)請求原因(2)の事実(同定可能性)については,争うことを明らかにしていない。
(3)請求原因(3)の事実(原告Aに対する権利侵害)及び同(4)の事実(原告会社に対する権利侵害)は,否認ないし争う。 「死ね」とは書いてあるが,殺意は一切なかった。
(4)請求原因(5)の事実(原告Aの損害)及び同(6)の事実(原告会社の損害)は否認ないし争 う。
(5)請求原因(7)は争う。

第3 当裁判所の判断
1 請求原因
(1)の事実(被告の投稿)及び同(2)の事実(同定可能性)は,当事者間に争いがない (同(2)の事実につき,民事訴訟法159条1項本文。)。
2 請求原因(3)の事実(原告Aに対する権利侵害)について
(1)請求原因(1)及び(2)の事実によれば,本件投稿は,原告会社の事業に関するスレッドにおい て,平成23年10月14日から同年11月19日までの間に合計13回に渡って,原告会社の代表取締 役である原告Aに対し,「死ね」「さっさと死ね」「キンモ早く死ね」「とっとと死ね」などと繰り返し たものであると認められる。
(2)原告Aは,本件投稿は原告Aに対する強い殺意を示すものであると主張しているが,〔1〕本件投稿は,「死ね」という表現を使用しているに過ぎず,「殺す」といった表現を使用しているわけではないこと,〔2〕本件投稿は,「死ね」というのみで,殺害行為の日時,場所,方法などの具体的な事実を予告しているわけではないこと,〔3〕本件投稿は,本件サイト(2ちゃんねる)に投稿されたものであるに過ぎず,原告会社ないし原告Aに対して,直接,文書送付ないしメール送信されたものではないことに 照らせば,本件投稿が原告Aに対する殺意を示すものであるとは認められない。
(3)また,原告Aは,本件投稿は一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると原告Aの社会的評価を低下させるものであり名誉毀損に当たると主張しているが,本件投稿は原告Aに関する具体的な事実を摘 示するものであるとは認められないし,一般読者の普通の注意と読み方を基準にしたときに,原告Aに関する何らの具体的な事実を暗示するものであるとも認められない。
(4)他方で,本件投稿は,原告Aが見ることを見越して,約1か月の間に13回にわたって原告Aに対 して「死ね」と繰り返したものであると認められるから,原告Aに対して一定の恐怖感を与える内容であると認められるとともに,原告Aの名誉感情を害する侮辱的なものであるとも認められるから,原告Aの人格権を侵害するものとして不法行為を構成すると認めるのが相当である。
3 請求原因(4)の事実(原告会社に対する権利侵害)について
(1)請求原因(1)及び(2)の事実によれば,本件投稿は,原告会社の事業に関するスレッドにおい て,平成23年10月14日から同年11月19日までの間に合計13回に渡って,原告会社の代表取締役である原告Aに対し,「死ね」「さっさと死ね」「キンモ早く死ね」「とっとと死ね」などと繰り返したものであると認められる。
(2)原告会社は,一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると,原告会社はその事業に関して尋常で ないトラブルがあるため,代表取締役が顧客から何度も何度も繰り返し「死ね」と書かれているのだと読めると主張しているが,一般読者の普通の注意と読み方を基準にすれば,代表取締役が顧客から何度も何度も繰り返し「死ね」と書かれていることから,原告会社ないしその代表取締役である原告Aが投稿者から悪感情を持たれていると読むことはできるにしても,かかる投稿内容から直ちに,原告会社がその事業に関して尋常でないトラブルを抱えている会社であると読むことができるとは認められない。
(3)また,原告会社は,本件投稿が原告会社の代表取締役である原告Aに対して強い殺意を示すものであるとの前提に立って,原告会社の業務を妨害するものであると主張しているが,上記2(2)で判断したとおり,本件投稿が原告Aに対する殺意を示すものであるとは認められないから,その余の点について 判断するまでもなく,原告会社の業務を妨害するものであるとは認められない。
(4)以上によれば,被告が行った本件投稿は原告会社に対する関係では不法行為を構成するものであるとは認められない。
4 請求原因(5)の事実(原告Aの損害)について
(1)上記2で認定・判断したとおり,本件投稿は,原告Aに対して一定の恐怖感を与え,原告Aの名誉 感情を害するものとして,原告Aとの関係で不法行為を構成するものであると認められるところ,被告による違法な本件投稿は,具体性のあるものではないが,平成23年10月14日から同年11月19日までの間に合計13回に渡って繰り返されたことなどを踏まえると,その慰謝料は30万円と認めるのが相当である。
(2)また,本件と相当因果関係のある弁護士費用損害は,上記慰謝料の1割に相当する3万円と認めるのが相当である。
5 まとめ
(1)原告Aの被告に対する請求は,損害合計33万円及びこれに対する最後の不法行為の日である平成 23年11月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとする。
(2)原告会社の被告に対する請求は理由がないから棄却することとする。
6 よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第5部 裁判官 杉山順一