「まるで詐欺」と言ったから名誉毀損?

発信者情報開示請求事件
東京地方裁判所平成24年(ワ)第736号
平成24年5月18日民事第43部判決
口頭弁論終結日平成24年2月24日

判 決

原告株式会社ロイヤルアートジャパン
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 神田知宏
被告NECビッグローブ株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 高橋利昌

主 文

1被告は,原告に対し,別紙投稿記事目録記載の各投稿記事に係る別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,インターネット上の電子掲示板において,何者か(以下「本件発信者」という。)が原告の権利を侵害する情報を掲載したとして,特定電気通信役務提供者である被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,発信者情報の開示を求めた事案である。

1 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は,美術品の輸出入及びその販売,購入並びにアンティークコインの輸出入及びその販売・購入等を目的とする株式会社である。
イ 被告は,プロバイダ責任制限法所定の特定電気通信役務提供者である。
(2)情報の流通本件発信者は,「2ちゃんねる」と題するインターネット上の電子掲示板の「Nevada7」と題するスレッド(URLhttp://<以下略>。以下「本件スレッド」という。)において,次のとおり,情報を流通させた(甲1,甲3,甲4)。
ア 本件発信者は,平成23年11月7日午前0時8分,別紙記事目録記載1の内容(以下「本件記事1」という。)を書き込み,その際のIPアドレスは,○○○.○○○.○○○.○○○であった。
イ 本件発信者は,平成23年11月8日午後4時30分,別紙記事目録記載2の内容(以下「本件記事2」という。)を書き込み,その際のIPアドレスは,○○○.○○○.○○○.○○○であった。
ウ 本件発信者は,平成23年11月9日午前9時15分,別紙記事目録記載3の内容(以下「本件記事3」といい,本件記事1及び2と合わせて「本件各記事」という。)を書き込み,その際のIPアドレスは,○○○.○○○.○○○.○○○であった。
(3)被告による情報の保有
被告は,現在,別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。
(4)開示を受けるべき正当な理由
原告は,本件発信者に対し,損害賠償請求を行う予定である(甲2)。

2 争点
本件の争点は,本件各記事による原告に対する権利侵害の成否及びその明白性である。
(原告の主張)
(1)本件記事1について
本件記事1のうち,「金貨を買った」,「詐欺」との部分は,一般読者に対し,原告が金貨販売事業について詐欺行為をしているとの印象を与えるものであるから,原告の社会的評価を低下させるものである。
そして,原告の金貨販売事業は詐欺ではないから,本件記事1は真実ではなく,違法性阻却事由はない。
(2)本件記事2について
本件記事2のうち,原告が業務妨害罪で法的措置を取ると通知したことについて「警察は被害届を受理しない」と指摘する部分は,一般読者に対し,原告の事業が違法であるため,警察には相手にされないとの印象を与えるものであるから,原告の社会的評価を低下させるものである。
そして,原告の事業は違法ではないから,本件記事2は真実ではなく,違法性阻却事由はない。
(3)本件記事3について
本件記事3のうち,「事実上の買取拒否」,「消費者センターに一件書類を送る」と指摘する部分は,一般読者に対し,原告が金貨の買取りを拒否しており,消費者センターが介入するようなトラブルがあるとの印象を与えるものであるから,原告の社会的評価を低下させるものである。
そして,原告は時価で金貨を買い取る意思があり,消費者センターが介入するようなトラブルは存在しないから,本件記事3は真実ではなく,違法性阻却事由はない。
(被告の主張)
否認ないし争う。
本件各記事が,原告の権利を侵害することが明白であるとはいえない。

第3 当裁判所の判断
1 権利侵害性について
(1)認定事実
本件スレッドの冒頭には,「Nevadaブログ」,「株式会社ロイヤルアートジャパン」,「ロイヤルアート店長日記」との記載及びそれらのURL並びに「コレクターズジャパン」との記載がある(甲1)。
原告の属する企業グループであるロイヤルアートグループは,「NEVADAブログ」の名称で,顧客に対する情報提供を目的とする投資情報ブログを開設しており,そこにはコレクターズ・ジャパン株式会社が含まれる。そして,原告は,金貨販売事業を営んでおり,顧客に対し,販売した金貨は時価で買い取る旨告知している。(甲2)
(2)判断
インターネット上の電子掲示板に掲載された記述の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,当該記載についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。そして,名誉毀損の成否が問題となっている表現が,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり,証拠等による証明になじまない物事の価値,善悪,優劣についての批評や論議などは,意見ないし論評の表明に属するというべきである(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。これに従って,本件各記事について以下検討する。
ア 本件スレッド
本件スレッドのタイトル及び冒頭部分の記載に鑑みれば,本件スレッドは,原告に関する話題を書き込む場であるということができる。
イ本件記事1について
そして,本件記事1のうち,「金貨を買った」,「詐欺」との部分は,原告が,金貨販売事業について詐欺を行ったとの事実を摘示したと解され,一般の読者にそのような印象を与えるものであるから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
ウ 本件記事2について
本件記事2のうち,「警察は被害届を受理しないと思うけど」との部分は,原告が警察に被害届を提出することに対する本件発信者の評価であり,証拠等による証明になじまないから,本件発信者の意見ないし論評の表明に属するというべきである。そして,警察が被害届を受理しない理由としては様々なものが考えられるから,本件記事2が,一般の読者に原告の事業が違法であるとの印象を与えるとまでは認められず,原告の社会的評価を低下させるものということはできない。
エ 本件記事3について
本件記事3は,原告が,自己が販売した金貨を時価で買い取る旨広告していながら,後になって買取りを拒否し,顧客とトラブルになっているとの事実を摘示するものであり,一般の読者にそのような印象を与えるものであるから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
オ 小括
以上より,本件記事1及び3は原告の社会的評価を低下させるものであることが認められる。

2 明白性について
(1)プロバイダ責任制限法4条1項1号は,同項所定の発信者情報の開示請求の要件の一つとして,「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」と定めており,ここでいう「明らか」とは,権利の侵害がされたことが明白であること,すなわち,不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことをいうと解される。
そして,事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
(2)そこで本件記事1及び3の真実性を検討すると,本件発信者と思われる者から,「(金貨の)買取を請求したが,未だもって買い取ってもらっていない。」,「業者はブログ上で提示している買取価格よりも低い価格を提示してきた。」等の回答がされているが(乙1),この事実を裏付ける証拠はなく,他に本件記事1及び3の真実性を認めるべき証拠はない。
また,本件発信者において,本件記事1及び3の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があったとの証拠もない。
そうすると,不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情は存在しないというべきであるから,本件記事1及び3の流通によって,原告の権利が侵害されたことは明らかである。

3 結論
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第43部
裁判長裁判官 萩原秀紀
裁判官 鎌野真敬
裁判官 手塚隆成

(別紙)発信者情報目録別紙投稿記事目録記載の各IPアドレスを,同目録記載の投稿日時に使用し,同目録記載の投稿用URLに接続した者に関する情報であって,次に掲げるもの
1氏名または名称
2住所
3電子メールアドレス

(別紙)投稿記事目録
(別紙)記事目録1
ネバダでウルトラハイリリーフ金貨を買ったのだが,売ろうとしたらまるで詐欺
ブログでは9月に買取価格を広報して、次に11月に買取価格の改訂を広報しているところが10月に買取を申入れたのに、安い方の11月の価格で買い取るという価格改定を訴求させるなんて、まるで詐欺ではないか。あの代表は、何かというと自分とこの社員を外部に向かって無能呼ばわりして、外国の業者の社員が盗難をやっているとか、日本人が劣化しているとか書いているところが自分自身は、価格改定を遡及して適応できると主張しているさてどうやったら9月の価格で買い取らせることができるのかどなたかお知恵拝借

(別紙)記事目録2
>>501だが
弁護士から内容証明郵便が届きましたよ。「消費者センターなり公正取引委員会に持ち込んだら、業務妨害罪で法的措置を取る」だそうですよ。弁護士は金さえ貰えば内容証明郵便を書くけれど、代表はこの文面を読んでいるのかしら?裁判になったらここで広報しますので、皆さん傍聴に来てください。警察は被害届を受理しないと思うけど。
本投稿は原告が「業務妨害罪で法的措置を取る」と通知したことについて「警察は被害届を受理しない」と指摘しており,一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると,原告の事業が違法であるため,警察には相手にされないと読め,原告の社会的評価を低下させる。しかるに,原告の事業は違法ではなく,そもそも501番の投稿者の悪質なクレームを前提としているから,本投稿に違法性阻却事由はない。なお,すでに警察へも被害相談をしている。

(別紙)記事目録3
>>501だが
代表取締役にメールしたら、こんな返事が来ました。
メール拝見致しました。
今回の貴殿からの稀少金貨買取依頼の手続きも含め、すべての手続きを当社顧問弁護士へ委任しましたので、今後の連絡はすべて、内容証明郵便に記載の当社顧問弁護士宛てにお送りください。
私はメールで、「とりあえず暫定的にそちらの主張する価格で買い取ってもらって、こちらの主張する価格との差額は、そのあとで決着をつけましょう」と書送ったのだが、これでは事実上の買取拒否みたいなものだ。仕方が無いので、東京都消費者センターに一件書類を送ることにしましょう。弁護士の方は、弁護士会に懲罰の申立をしましょうか。